ファッション豆知識 #5

部8大学に学ぶアイビーリーガーが好んで着用したアイビージャケットのディテールでも有名なのが3ボタン段返り。一番上のボタンは実質的に飾りとなっているが、なぜ、そんな非実用的なものが伝統となったのだろうか不思議に思われている方も多いと思います。
そのルーツをたどってみました。

20世紀初頭から1960年代にかけて、歴史が浅く伝統のない米国からすれば、欧州は依然として文化先進国でありエレガンスの本場でした。

米国では当時、富裕層あるいはエグゼクティブ階層は、隆とした身なりのロンドンやパリ仕立ての【ウェストがくびれ、縦縞であか抜けた】コンチネンタルスタイルスーツを身にまとい、冬は上質なカシミヤやウールのチェスターコートをまとうのが常でした。

そのような成金趣味に反発し、新しい国米国ならではの、こざっぱりしたスポーティなスタイルを、勇気を持って着こなしたのが、自他共に将来のエリートと認められたアイビーリガーだったのです。アイビーリガーは、肥えた豚よりやせたソクラテスをめざす、知のエリート、大学教授の気分とプライドにマッチしたスタイルでした。

一見野暮ったいことがカッコよいアイビールックは、貧困層ではなく富裕層であり、高学歴層だからこそできたチープシックスタイルです。だからこそ、主に若々しいマインドを持った人々に受け入れられたのだと思います。

そして、その極めつけは、ケネディ大統領でした。
  若々しく、いかにも米国の新しい文化を体現した大統領の出自は、王家やそれに連なる貴族がいない米国で事実上のエリート層だったWASP(ホワイトアングロサクソン・プロテスタント 米国を牛耳っていたエリート層)の中の超名門ケネディ家でした。

その名門が、既成常識にとらわれず、あたらしい米国文化の象徴とも言えるアイビースタイル、つまりアイビースタイルの元祖ともいえるブルックスブラザースのジャケットやスーツ、そしてヨットセーリングファッションでテレビや雑誌に登場するたび、アイビースタイルの信奉者は増えていったのです。

さて話をもどして、段返り3ボタンに言及します。

段返り3ボタンをたどれば、結局米国青年の理想像へと行き着くように思います。米国では通常、頭は良いが身体が貧弱なガリ勉は敬遠され、クールでスマート、そしてスポーツ万能が好まれます。

その好ましい青年が着るジャケットは、平均的な体型に合うよう作られた既製服ですが、身体にぴったりと合っているものの、胸板が厚すぎて一番上のボタンがかからない状態になります。この寸足らずが彼らにはカッコよいのです。

つまり自己PRしなくても、アイビージャケットをピシッと着こなすことで、【インテリジェンスがある】【米国文化に誇りを持ち、成金的既成概念を見下す気構えがある】ことが表現できます。その上、発達した筋肉のせいで一番上のボタンは掛けられず、外して中ひとつ掛けとなっている。要するにスポーツ万能で、形式にこだわらずラフで気さくな性格が見て取れる。これこそ、アイビーリーガーの心なのでしょう。

もともとは段返りは着こなしだったものが、その心を様式化してしまったのが、今日我々が言う【段返り3ボタン】であると理解してもらいたいものです。